「AI研修を導入したいが、本当に現場で使われるようになるのか」——経営者であれば、誰しもこの不安を感じるのではないでしょうか。
ツールの操作方法を教えただけで終わる研修は少なくありません。導入直後は活用されても、1ヶ月後にはほとんどの社員が元のやり方に戻ってしまう。そんな話を耳にしたことがある方も多いはずです。
本記事では、東証プライム上場企業である株式会社北の達人コーポレーション様に対して実施した、AIエージェント研修と生成AI伴走プロジェクトの全容を紹介します。延べ約300名が受講し、法律リサーチの工数をほぼ100%削減、求人校正を90%以上短縮するなど、具体的な成果が生まれた事例です。研修のカリキュラム設計から受講者の声、研修後に社員が自走して構築した自動化ツールまで、すべてを公開します。
北の達人コーポレーション様の概要と課題

企業プロフィール
株式会社北の達人コーポレーションは、東証プライム市場に上場するEC・健康食品企業です。「北の快適工房」ブランドでスキンケア製品や健康食品を展開し、従業員は約100名。データドリブンな経営スタイルと、社員の成長を重視する企業文化が特徴です。
AI活用における課題
同社では2025年夏に、別の研修会社による全6回のAI基礎研修を実施済みでした。ChatGPT・Geminiの基礎操作、プロンプト設計、NotebookLM、GAS連携など、ツールの使い方は一通り学んだ状態です。
しかし、次のような課題が残っていました。
- 使う人は使っているが、使わない人は使っていない。全社的な活用にばらつきがある
- 具体的な業務プロセスから「どの業務にAIを当てるか」の棚卸しが未実施
- AIの使い方を壁打ちできる外部の専門家がいない
- 生成AIのアップデート(AIエージェントの登場など)に対応できていない
基礎研修は終えたが、実務に根ざした活用と組織への定着がこれからの段階でした。評価制度にはすでに「AI活用度合い」を組み込んでいたものの、現場の推進力にはまだ温度差がある状態です。
支援の全体像|研修からプロジェクト伴走まで
株式会社Saixでは、北の達人コーポレーション様に対して3つのフェーズで支援を実施しました。「教える」だけでなく「一緒に作る」「自走できるまで伴走する」設計です。

Phase 1 — AI研修プログラム(全5回・2025年夏)
最初のフェーズは、全5回のAI研修プログラムです。杉田が講師を担当し、ChatGPT・Geminiの実務活用をハンズオン形式で実施しました。
この研修の成果として、同社は評価制度にAI活用度合いを正式に組み込みました。「AIを使うかどうかは個人の裁量」ではなく、「組織として活用を推進する」という経営判断がなされたのは、大きな転換点です。
Phase 2 — AIエージェント研修(3日間集中・延べ約300名受講)
2026年1月から実施した3日間集中研修です。Phase 1から半年が経過し、生成AIの世界は「チャットで質問する」段階から「AIエージェントに仕事を任せる」段階へと進化していました。
この変化に対応するため、全従業員約100名を対象に、各回1.5〜2時間のオンライン研修を3回実施。延べ約300名が受講しました。
| 回 | テーマ | 内容 |
|---|---|---|
| Day 1 | AIエージェント基礎 | AIアシスタントとエージェントの違い、活用シーンの判断基準 |
| Day 2 | ChatGPT Agent実践 | ChatGPTエージェント・Deep Researchを北の達人仕様にカスタマイズ |
| Day 3 | Google Workspace Flows実践 | Googleの環境でAIエージェントを構築し、日常業務を自動化 |
同社はOpenAIとGoogle、両方の環境を業務で使用していたため、両ツールを網羅するカリキュラムを設計しました。
Phase 3 — 生成AI伴走プロジェクト(半年〜1年)
研修だけでは「やって終わり」になりかねません。Phase 3では、採用・総務庶務・労務の3部署からキーパーソン6名を選出し、半年〜1年間の伴走プロジェクトを実施しました。
隔週1時間のミーティングで、業務プロセスの分解・AI実装の検証・KPIモニタリングを繰り返し、最終的に全メンバーが複数の自動化事例を社内発表会で報告する構成です。
「研修で学ぶ → プロジェクトで実装する → 成果を全社に共有する」。この3段構えが、AI活用を”一時的なブーム”で終わらせない設計のポイントです。
AIエージェント研修の具体的な内容と進め方

全3回のカリキュラム設計思想
研修全体の目的は、「AIを使う側」から「AIに働かせる側」への転換です。単なるツール操作の習得ではなく、「AIを部下として使いこなす思考法」をインストールすることをゴールに設定しました。
Day 1では、AIエージェントとチャットボットの決定的な違いを明確にしました。従来のチャットボットは「人間が質問し、AIが答える」受動的な道具です。一方、AIエージェントは「人間がゴールを設定し、AIが計画・実行・修正まで自律的に行う」能動的な存在です。この違いを、参加者全員が腹落ちするまで繰り返し説明しました。
Day 2では、ChatGPTのエージェント機能やDeep Researchを使い、北の達人コーポレーション様の実際の業務データで演習を行いました。化粧品市場のトレンド調査や競合分析など、同社の日常業務に直結するテーマを題材にしています。
Day 3では、Google Workspace Flowsを使ったエージェント構築を実施。Gmailの自動処理やGoogleカレンダーとの連携など、社員一人ひとりが「自分の業務用ロボット」を作れる状態を目指しました。
Zoom100名研修の進行メソッド
約100名がZoomで同時参加するオンライン研修では、「誰がついてきていないか見えない」ことが最大の課題です。
対策として、講師用にモバイルモニターを別途設置し、参加者100名の顔を常時表示しながら進行しました。表情から「難しそうにしている人」「手が止まっている人」を読み取り、リアルタイムで講義のペースや説明の深さを調整しています。
進行は「講義10分 → グループワーク20分 → 発表15分」のサイクルです。ラーニングピラミッドの理論に基づき、講義よりもアウトプットの時間を多くとる設計にしました。発表はコールドコール制(ランダム指名)を採用し、「指名されるかもしれない」という適度な緊張感を学習意欲につなげています。
研修の進行イメージはYouTube動画で、確認できます。
具体的な進め方や研修を受けている社員の様子を知りたい方はこちらから見てください。
木下社長も全3回に参加
特筆すべきは、木下社長が全3回すべてに参加したことです。Zoomの最上段に表示され、適宜コメントや質問を挟むなど積極的に関与していました。
経営トップが研修に参加するかどうかは、社員の受け止め方を大きく変えます。「社長も一緒に学んでいる」という事実が、「これは会社として本気で取り組んでいる」というメッセージになります。
受講者の声|延べ300名のアンケート結果

回を重ねるごとに上がった満足度
全3回の研修終了後、毎回アンケートを実施しました。満足度(「非常に満足」+「満足」)の推移は以下の通りです。
| 回 | 参加者数 | 満足度 | 理解度 |
|---|---|---|---|
| 第1回(AIエージェント基礎) | 約100名 | 70% | AIエージェントの違いを85%が理解 |
| 第2回(ChatGPTエージェント) | 約104名 | 75% | ChatGPTエージェントを75%が理解 |
| 第3回(Google Workspace Flows) | 約100名 | 80% | 一人で設定可能+マニュアルで可能=65% |
回を追うごとに満足度が上がっているのは、研修内容が回を経るにつれてより実践的になり、「自分の業務にすぐ使える」実感が強まったためです。
自動化アクションプラン策定率90%以上
第3回の研修では、受講者に「自分の業務で自動化したいこと」をアクションプランとして設計してもらいました。結果として、90%以上の受講者が具体的な自動化プランを策定しました。
実際に出てきたプランの一部を紹介します。
- 「不採算広告のリストアップとGASを使った自動広告停止」
- 「Google Meetの文字起こしを自動で拾い、面接要約をメールで出力。30分削減」
- 「毎朝8:00にタスク管理スプレッドシートから期日が当日のタスクを抽出してメール通知」
- 「未返信メールのピックアップ → todoタスクに自動作成」
- 「広告クオリティチェック内容を抽出し、NG内容をジャンル別に仕分け・集計して通知」
いずれも抽象的なアイデアではなく、「何を」「どのツールで」「どう自動化するか」まで落とし込まれた実行可能なプランです。
受講者の印象的な声
アンケートに寄せられた声の中から、特に印象的なものを紹介します。
「今回の研修は、難しい言葉を使いすぎず、『つまりこれってどういうことか』をわかりやすく教えていただけて、枝葉の先ではなく幹の部分の概念をすごく理解できた」(商品部)
「正直AIには苦手意識があったのですが、想像よりも進化していて、自分の業務にも活かせるかもと思えるようになりました」(管理部)
「エージェントモードを複数並行稼働させて、簡単な業務はすべて手離れさせていきたい」
「自身で作業用ロボットを作れるようで、楽しく業務効率化ができそうでした」(人事総務部)
「苦手意識があったが変わった」「楽しいと感じた」という声は、研修設計において最も重視していたポイントです。AIへの心理的ハードルを下げることが、その後の自発的な活用に直結するからです。
研修後の成果|従業員インタビューと自動化事例
研修の真価は、終了後に問われます。北の達人コーポレーション様では、研修終了後も社員が自発的にAI活用を続け、具体的な業務改善を実現しました。ここでは、従業員インタビューとプロジェクト最終発表会で報告された自動化事例を紹介します。
中村さん(Webマーケティング部 商品責任者)— 議事録の完全自動化
Before: トレンド情報の収集や他社動画の自社転用に膨大な時間を費やしていました。
After: AIエージェントを活用し、3つの業務で大幅な改善を実現しました。
- 動画リサーチ・転用: 他社動画の自社転用をAIエージェントに通すことで、均一化されたアウトプットが安定して出るようになり、大幅な時短を達成
- メール作成: 意思決定や方向性を伝えるだけで、AIが文面を作成。「非常に楽になった」
- 議事録・タスク管理: Google Meetの文字起こしデータをGoogleドライブに入れるだけで、AIが自動で要約・ネクストアクション整理まで完全自動化
中村さんは「ChatGPTエージェントは、別の作業をしている片手間で走らせておけば、正確なリサーチ情報が返ってくるため非常に重宝している」と語っています。
白山さん(商品部 企画・開発)— 法律リサーチをほぼ100%削減
Before: 商品ごとに異なる法律・表記ルールのリサーチだけで数時間を費やしていました。
After: 4つの業務でAI活用を実現しました。
- 法律・表記ルールのリサーチ: 数時間 → ほぼ0に。手間が「ほぼ0」になった
- 顧客アンケート分析: 300人規模のアンケート分析をAIで自動化
- 企画立案: アンケート結果からデータに基づいた質の高い企画案をAIが起案
- トレンド情報収集: 毎週月曜の朝一に業界トレンド情報をAIが自動送付する仕組みを構築
白山さんは「未知の新しいジャンルでも、タイムリーに必要な情報をリサーチさせて企画を進行できている」と話しています。

以下のYouTube動画でも、実際に研修を受けてくださった中村さんと白山さんにインタビューしております。
研修を受けたあと、従業員がどのように生成AIを使いこなしていっているのか、イメージをぜひ下記の動画で掴んでください。
採用チーム — 求人校正90%削減・メール返信80%自動化
伴走プロジェクトの最終発表会では、採用チームから4つの自動化ツールが報告されました。
1. 校正用Gem(求人票の校正チェック)
- Before: 1求人の校正チェックに10分〜15分
- After: 1分で完了(90%以上の削減)
2. リライト用Gem(求人票のリライト)
- Before: 1求人のリライトに30分〜60分
- After: 1分でリライト案・構成案・訴求ポイントが整理される(97%以上の削減)
3. 辞退リスク洗い出しGem
- Before: 1人あたり30分〜60分かけて辞退リスクを分析
- After: 数分で辞退リスクの整理と各リスクに対する対策を出力
4. 応募者メール返信Gem(80%自動化)
- Gmailのサイドパネルで「返信」と1ワード入力するだけで、宛名・名乗り・返信案が自動生成
- 24時間経過メールには謝罪文を自動追加、特定条件では担当者名を自動切り替えなど、現場の「こだわり」をロジック化
- AI 80% + 人間 20%のバランスで運用
総務チーム — 災害時の全自動報告システムと座席配置の自動化
総務チームからは、生成AIを「開発パートナー」として位置づけた2つのツールが報告されました。
1. 自動勤怠報告ツール
自然災害発生時に連絡が集中し、各部署への状況共有が手動で行われていた課題を解決しました。Googleフォーム・GAS・AIを組み合わせ、組織階層に連動した自動振り分け、職種別のフロー、プライバシー管理まで組み込んだ全自動報告システムを構築しています。
2. 座席自動配置ツール
総会や表彰式における座席配置は、「役員は前方」「職級順」「部署単位」といった複雑なルールのパズルでした。AIが職級をスコア化して80%を自動配置し、残り20%を人間が微調整する設計です。ブラウザ上で完結し、URLひとつで最新状況を共有できます。
面接管理 — Googleカレンダー×GASで「ミスゼロ」の転記自動化
採用担当者が抱えていた「転記の不安」を解消した事例です。
従来は面接予定をカレンダーに登録した後、日別の管理簿と面接官別の管理簿に手動転記していました。「いつかどこかで間違えそう」「漏れそうで嫌だな」という心理的プレッシャーが常にあったといいます。
解決策として、Googleカレンダーを「唯一の正解(マスターデータ)」と定義し、GASで管理簿への自動抽出を実現しました。Geminiとの対話でGASコードを生成し、エラーが解消できない場面ではChatGPTにセカンドオピニオンを求めるなど、複数のAIを使い分けて構築しています。
担当者は「コードが書けなくても、AIとの対話ができればGASは作れる。転記ミスの恐怖から解放された」と語っています。
成功のポイント|なぜ北の達人コーポレーションでAIが定着したのか

研修を受けただけではAIは定着しません。北の達人コーポレーション様でAI活用が「本物」になった背景には、4つのポイントがあります。
1. 評価制度へのAI活用の組み込み
同社は、社員の評価制度にAI活用度合いを正式に追加しました。月次で生成AIの活用事例を共有し、活用度合い(チャット数、ユースケース数)を報告する体制を整えています。「使っても使わなくても自由」ではなく、「活用が評価に反映される」仕組みがあることで、全社的な推進力が生まれます。
2. 経営トップの積極参加
木下社長が全3回のAIエージェント研修にすべて参加し、質問やコメントを積極的に行いました。トップ自らが「学ぶ姿勢」を見せることは、どんな社内通達よりも強いメッセージになります。
3. 研修→プロジェクト伴走の段階設計
「全社研修で知識を入れる」→「選抜メンバーのプロジェクトで実装する」→「成果を全社発表会で共有する」。この3段階の設計が、知識の定着と組織への波及を実現しました。
特にプロジェクトでは、「時短」だけでなく「付加価値の創出」を評価軸に加えました。「早く終わるようになった」だけでなく、「これまでできなかったことができるようになった」という質の向上を求めたことが、社員のAI活用を深いレベルに引き上げています。
4. 「事務作業の部署」→「仕組みを作る部署」への意識変革
総務チームの最終発表では、「事務作業をする部署」から「工数を減らせる仕組みを作る部署」への進化が語られました。生成AIを「文章を書くツール」ではなく「開発パートナー」として位置づけ、非エンジニアでもシステム構築ができることを実証しています。
この意識変革は、AI活用の持続性にとって最も重要な要素です。ツールの使い方ではなく、「AIとの協働で何を生み出せるか」という視座を持てるかどうかが、研修の効果を一過性で終わらせるか長期的な変革につなげるかの分かれ目になります。
他の企業はどうやってAIを活用しているのか——11社の導入事例を体系的にまとめた資料をご用意しています。
▶︎ 『AI導入で成果を出した企業の共通点 — 事例10選』を見てみる
まとめ

北の達人コーポレーション様の事例から見えるのは、AI研修を「成果」に変えるための3つの原則です。
1. 研修で終わらせない。 研修の後にプロジェクト伴走があることで、学んだ知識が実務に定着します。延べ300名が受講し、選抜6名が伴走プロジェクトで具体的な自動化ツールを構築しました。
2. 数値で語れる成果を出す。 法律リサーチほぼ100%削減、求人校正90%削減、採用メール80%自動化。抽象的な「効率化」ではなく、具体的な削減率が社内の説得力を生みます。
3. 組織の仕組みで支える。 評価制度への組み込み、経営トップの参加、月次の事例共有。個人の努力ではなく、組織の仕組みとしてAI活用を推進する体制が不可欠です。
AI研修の導入を検討されている企業の皆様に、本事例が判断材料の一つになれば幸いです。
SAIX REPORT NO.03|無料ダウンロード
AI導入事例集 10社の実装設計
〜成果を出した企業から学ぶ/業界別ケーススタディ〜
✓ 製造・金融・小売・士業・サービス業の10社を業界横断で収録
✓ 課題設定・実装ステップ・KPI推移・つまずきと突破口を深掘り
✓ 10事例から抽出した「7つの成功再現パターン」まで収録
全80ページ/PDF/株式会社Saix 発行



コメント