「自分の頭の中にあるノウハウを、どうすれば組織の資産として残せるだろうか」——コンサルタントや士業であれば、一度は考えたことがあるのではないでしょうか。
長年の経験で培った判断基準、クライアントへの助言パターン、研修で伝えてきた知見。これらは属人的なまま、本人が動けなくなれば失われてしまいます。後進に引き継ぐにも、言語化しきれない部分が多い。
本記事では、この「コンサルタントの暗黙知」をAIで資産化した事例と、研修コンテンツ開発にAIを活用して工数を大幅に削減した事例を紹介します。いずれも当社(株式会社Saix)が支援した実際のプロジェクトです。
「知的資産のAI化」と聞くと大がかりに聞こえるかもしれませんが、始め方は意外にシンプルです。2社の事例を通じて、その具体的な進め方をお伝えします。
コンサルタントの「暗黙知」をAIで資産化する時代

なぜ今、知的資産のデジタル化が必要なのか
コンサルタントのビジネスモデルは、個人の知識と経験に大きく依存しています。セミナーで話す内容、クライアントへの助言、ワークショップの進行ノウハウ。どれも「その人がいるから成り立つ」ものです。
この構造には3つのリスクがあります。
- 本人が稼働できない期間、売上がゼロになる
- 事業を拡大しようとしても、自分の時間が上限になる
- 長年かけて蓄積した知見が、体系的に記録されていない
従来、この問題に対するアプローチは「書籍化」「動画コンテンツ化」「マニュアル作成」でした。どれも有効ですが、作成に膨大な時間がかかり、完成しても更新が追いつかないという課題がありました。
生成AIが変えた2つのこと
生成AIの登場によって、知的資産のデジタル化は現実的な選択肢になりました。変わったのは以下の2点です。
1つ目は、既存の映像・音声データからテキストを抽出し、構造化するコストが劇的に下がったこと。数百時間分のセミナー映像も、文字起こし→要約→体系化のプロセスをAIが担えるようになりました。
2つ目は、構造化した知識を「対話型のAIアシスタント」として再現できるようになったこと。単なるFAQではなく、文脈を理解して回答するAIボットが、専門的な技術なしで構築可能になっています。
では、実際にどのように進めるのか。2社の事例を見ていきます。
【事例1】200時間の映像ナレッジをAIボットに変換|カタリスタの知的資産AI化

企業プロフィールと課題
株式会社カタリスタは、代表の飯島様が主宰する経営計画書作成ワークショップを軸にした経営コンサルティング企業です。
飯島様は長年にわたってセミナーやワークショップを開催し、その映像データは数十時間から数百時間分に及びます。経営計画書の作り方、MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)策定の進め方、経営者との対話手法など、蓄積されたノウハウの量は膨大です。
しかし、3つの課題を抱えていました。
- 映像データにノウハウが眠ったまま、活用の手段がなかった
- 事業を拡大したいが、飯島様本人の稼働時間が上限になっていた
- AIを活用したいが、何から始めるべきか戦略が描けていなかった
支援内容|4つの施策
当社からは生成AI活用コンサルティング(顧問型)として、以下の4領域で支援を行いました。
施策1:知的資産のAI化プロセス設計
最も核心的な施策です。約200時間分の映像データをAIが学習できる形に変換するプロセスを設計しました。具体的には、映像のテキスト化→要約→カテゴリ分類→AI学習用データ整備という流れです。
最終的なゴールは「飯島様ボット」の構築です。飯島様の思考パターン、助言の癖、判断基準をAIが再現し、24時間365日クライアントの質問に対応できるアシスタントを目指しています。現在はロードマップの策定と初期データの整備が完了した段階です。
施策2:既存事業の高度化
経営計画書作成ワークショップの中で、MVV策定やビジョン言語化のプロセスにAI対話を組み込む設計を行いました。参加者が自分の考えをAIと壁打ちしながら言語化していく仕組みです。ワークショップの質を上げつつ、飯島様の負担を軽減する狙いがあります。
施策3:マーケティングの加速
ファネル全体の分析を実施し、広告コピーの自動評価、テキストから図解への自動生成など、マーケティング業務へのAI活用を設計しました。コンサルタントは「良いサービスを作ること」に集中しがちで、集客の仕組み化が後回しになりやすい。ここをAIで補う方針です。
施策4:新規研修コンテンツ開発
飯島様のノウハウを新たな研修プログラムとして展開するため、カリキュラム骨子のAI作成、受講者アンケートのAI分析による改善サイクルを設計しました。
成果と今後の展開
支援の結果、以下の成果が得られました。
- 「飯島様ボット」の開発ロードマップが策定され、実装フェーズに移行
- 具体的なサービス開発プランが3つ以上設計された
- 飯島様自身が「明日から使えるAI活用法」を獲得し、日常業務で実践を開始
200時間分の映像データをAIに学習させるプロセスは現在進行中で、今後はアップセルとして実装フェーズの支援も予定しています。
【事例2】研修開発の工数を大幅削減|FutureRaysの研修企画支援

企業プロフィールと課題
FutureRays株式会社は、クライアント企業のAI導入・DX推進を支援する企業です。自社のクライアントに対してAI研修を提供する立場にあり、研修コンテンツの企画・開発を内製化する必要がありました。
しかし、次のような課題に直面していました。
- AIの進化が速く、最先端の内容を反映した研修を内製するのが困難
- 企画立案からコンテンツ開発、資料デザインまでの工数が増大していた
- クライアントに提示する資料の視覚的な品質を担保する必要があった
AI研修を提供する側だからこそ、コンテンツの質と鮮度に対する要求は高くなります。自社だけで対応するには限界がある状態でした。
支援内容|企画から資料まで一貫して開発
当社からは研修企画支援として、企画立案→コンテンツ開発→資料デザインの一貫した支援を行いました。
企画フェーズ:体系的なプログラム設計
AI基礎知識から実務での活用法、セキュリティ・コンプライアンスに至るまで、網羅的な研修プログラムを設計しました。「AIとは何か」で終わらず、受講者が翌日から業務で使える実践内容を重視した構成です。
コンテンツフェーズ:実務直結のハンズオン教材
受講者が手を動かしながら学べるハンズオン形式の教材を開発しました。具体的には以下の内容です。
- Excelマクロの自動生成(AIにマクロを書かせて業務を効率化する手法)
- OCRと多言語翻訳の活用(紙資料のデジタル化と海外対応)
- 画像生成AIの業務活用(プレゼン資料やマーケティング素材の作成)
- メール作成・文章要約のAI活用(日常業務の時間短縮)
- セキュリティ・コンプライアンスの基礎知識(AI利用時のリスク管理)
単にツールの使い方を教えるのではなく、「どの業務で」「なぜ使うのか」「使う際に何に注意するのか」までセットで設計しています。
資料フェーズ:図解・イラストで理解度を最大化
研修資料では、図解やイラストを効果的に活用し、受講者の理解度を引き上げる設計を行いました。テキストだけの資料と比較して、視覚的な要素を加えることで「わかった気がする」ではなく「自分でもできそう」と感じてもらえる品質を目指しています。
成果
支援の結果、以下が実現しました。
- FutureRays様の事業に最適化されたAI研修プログラムが確立
- クライアントに提供できる高品質なコンテンツを獲得
- 企画から資料完成までの開発工数が大幅に削減された
研修コンテンツの開発を外部に依頼するのではなく、一貫して共同開発する形を取ったことで、FutureRays様のチームにもノウハウが蓄積されています。次回以降の研修コンテンツは、より少ない工数で内製できる体制が整いつつあります。
「他の会社はどうやってAIを活用しているんだろう?」と気になる方も多いはずです。
実際に成果を出している企業には、いくつかの共通するパターンがあります。
▶︎ 『AI導入で成果を出した企業の共通点 — 事例10選』を見てみる
コンサルタントがAIを活用すべき4つの領域

2社の事例から見えてくるのは、コンサルタントがAIを活用すべき領域には明確なパターンがあるということです。以下の4領域に分けて整理します。
領域1:知的資産のデジタル化と再利用
カタリスタの事例で中心となった施策です。セミナー映像、過去の提案書、クライアントとのやり取り。こうした素材をテキスト化・構造化し、AIが検索・回答できる形に変換する取り組みです。
具体的なステップは以下の通りです。
- 映像・音声データの文字起こし(AIによる自動処理)
- テキストの要約と分類(テーマ別、手法別、業種別など)
- 分類されたデータをAIに読み込ませ、質問応答型のボットを構築
最初からすべてを自動化する必要はありません。まずは「最も価値の高い映像10本分」から始めるだけでも、自分の分身となるAIの原型が作れます。
領域2:既存サービスへのAI組み込み
研修やワークショップの中にAIとの対話セッションを取り入れるパターンです。カタリスタのMVV策定ワークショップでの活用がこれにあたります。
参加者が自分の考えをAIにぶつけ、壁打ちしながら言語化を進める。コンサルタントはその過程を見守り、要所で介入する。AIが「作業」を担い、人間が「判断」に集中する分担です。
領域3:マーケティング・集客の効率化
コンサルタントの多くは、サービスの質には自信があっても、集客に課題を感じています。広告コピーの作成、SNS投稿、メルマガのライティング。こうした反復的な作業をAIに任せることで、本業のコンサルティングに時間を振り向けられます。
カタリスタの事例では、ファネル分析と広告コピーの自動評価を導入しました。自分のマーケティング施策を客観的に分析する「もう一人の自分」をAIが担う形です。
領域4:研修コンテンツの開発効率化
FutureRaysの事例が該当します。研修プログラムの設計、ハンズオン教材の作成、資料のデザイン。これらの開発工程にAIを組み込むことで、品質を維持しながら開発スピードを上げることができます。
特にAI関連の研修は、ツールのアップデートが頻繁で、コンテンツの賞味期限が短い領域です。開発工数を抑えられれば、最新情報への対応速度も上がります。
まとめ|知的資産のAI化は「小さな実験」から始まる

本記事では、経営コンサルタントのAI活用事例として、2社の取り組みを紹介しました。
- カタリスタ様:200時間分の映像ナレッジをAIボット化する「知的資産のデジタル化」
- FutureRays様:研修の企画・開発・資料デザインを一貫して効率化する「研修開発支援」
どちらの事例にも共通しているのは、「まず小さく始めた」という点です。
カタリスタ様は、全映像データの一括処理ではなく、まずロードマップ策定と初期データ整備から着手しました。FutureRays様も、全研修を一度にAI化するのではなく、1つのプログラムを共同開発する形からスタートしています。
知的資産のAI化は、大規模なシステム投資ではありません。「自分のノウハウで最も価値が高い部分はどこか」を見極め、そこから文字起こし→構造化→AI活用という流れを小さく回す。それだけで、事業の拡張性が変わります。
「自分の場合、何から始めればいいのか」が見えない場合は、AI活用に精通した外部の専門家と壁打ちするのも有効な選択肢です。
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