「杉田さんって、何でもAIでやりましょうって言う人でしょ?」
初めてお会いする経営者から、よくこう言われます。AI顧問と名乗っている以上、そう思われるのは仕方ない。でも、実際に私がクライアントに一番多く言っている言葉は、たぶん「それ、AIでやらないでください」です。
AIに任せてはいけない領域がある
ある製造業の社長から相談を受けたときのことです。「取引先への謝罪文をAIに書かせたい」と。品質トラブルが発生し、長年の取引先に説明と謝罪をしなければならない状況でした。
私は即座に止めました。「それは社長が自分の言葉で書いてください」と。
理由は単純です。謝罪の場面で相手が見ているのは、文章のクオリティではない。書き手の誠意です。AIが整った文章を生成してくれるのは事実ですが、整いすぎた文章は逆に「気持ちがこもっていない」と受け取られる危険がある。特に長年の取引先なら、社長の文章の癖や温度感を知っている。そこにAIの匂いがしたら、信頼は一気に崩れます。
AIは「正しい文章」は作れるけれど、「心が伝わる文章」を作るのは苦手です。少なくとも今の段階では。
AIの得意分野と苦手分野を仕分ける
100社以上のAI導入を支援してきて、明確にわかったことがあります。AIが得意な領域と苦手な領域は、思っているよりはっきり分かれている。
AIが圧倒的に強いのは、大量の情報の整理、パターンの認識、定型業務の自動化、文書のドラフト作成です。人間が数時間かけていた作業を数分で終わらせる。ここにAIを使わない手はない。
一方、AIが苦手なのは、人間関係の機微を読むこと、組織の空気を感じること、責任を持つこと、そして「正解がない問い」に向き合うことです。
たとえば、社員の退職面談。AIにアドバイスの台本を作らせることはできるけれど、その場の空気を読んで言葉を選ぶのは人間にしかできない。取引先との価格交渉。データや根拠はAIに用意させるけれど、最後に「ここは譲れない」と目を見て伝えるのは社長自身です。
AI顧問の仕事は、この仕分けを一つひとつの業務に対して行うことです。「これはAIに任せましょう」だけでなく、「これは絶対に人間がやってください」と言い切ること。後者の方が、実は重要です。
「全部AIで」が招く失敗
AIへの期待が高すぎるクライアントほど、危険です。
以前、あるスタートアップの経営者が「カスタマーサポートを全部AIに置き換えたい」と相談してきました。確かに、よくある質問への回答や、問い合わせの一次振り分けはAIで十分対応できます。コストも大幅に下がる。
でも、私は全面的な置き換えには反対しました。なぜなら、カスタマーサポートは「顧客の不満」に直接触れる場所だからです。怒っている顧客に対して、AIが紋切り型の回答を返したら、火に油を注ぐことになる。しかも、カスタマーサポートに寄せられる声には、サービス改善のヒントが詰まっている。それをAIだけで処理してしまうと、経営者の耳に生の声が届かなくなる。
結局、一次対応の70%をAIに任せ、残り30%──特に感情的なクレームや複雑な相談──は人間が対応する設計にしました。この「30%を人間が守る」という判断が、サービスの品質を維持する鍵になっています。
AIの限界を知っているからこそ言えること
私は毎日Claude Codeを使っています。自分の業務の大半にAIが関わっています。だからこそ、AIの限界がわかる。
AIは「もっともらしい嘘」をつくことがある。これは技術的にはハルシネーション(幻覚)と呼ばれますが、要するに自信満々に間違ったことを言う。特に数値や固有名詞の正確性には注意が必要です。AIの出力を無条件に信用して、誤ったデータで経営判断を下したら、取り返しがつかない。
AIは「空気を読まない」。組織にはいつも表に出ない力学がある。誰と誰の関係がうまくいっていないとか、この部署は今プレッシャーがかかっているとか。AIにはそれが見えない。見えないものを考慮に入れずに判断すると、正論だけど的外れなアドバイスになる。
AIは「責任を取れない」。最終的な判断の責任は、必ず人間が負う。AIに判断させること自体は問題ない。でも、その判断を採用するかどうかを決めるのは経営者です。「AIがそう言ったから」は、言い訳にはなりません。
これらの限界を理解した上でAIを使う。それがプロの使い方です。Claude Codeの経営活用における全体的な考え方は、Claude Code経営活用の完全ガイドで詳しくまとめています。
「使わない判断」ができるAI顧問を選ぶべき理由
世の中には「AIで何でもできます」と言うコンサルタントが増えています。確かにAIは強力なツールです。でも、万能ではない。
「何でもAIで」と言うコンサルタントは、たいていAIを深く使っていない。表面的な知識でAIを売り込んでいるだけです。本当にAIを使い込んでいる人間ほど、AIの弱点を知っている。弱点を知っているから、「ここは使うな」と言える。
私はクライアントに対して、耳が痛いことも言います。「その業務はAIに向いていません」「今のフェーズでAIに投資するのは早すぎます」「まず人間の業務フローを整理するのが先です」。こういう助言ができるのは、AIを毎日触っている実務者だからです。
AI顧問を選ぶなら、「AIを使いましょう」だけでなく「AIを使わないでください」と言える人を選んでください。その方が、結果的にAI活用の成果が出ます。
まとめ:AIと人間の最適配分を設計する仕事
AI顧問の本当の仕事は、「AIを導入すること」ではありません。「AIと人間の最適な配分を設計すること」です。
どの業務をAIに任せるか。どの業務を人間が守るか。その境界線を引くのは、AIへの深い理解と、ビジネスへの深い理解の両方が必要です。片方だけでは不十分です。
私はこれからも、「それ、AIでやらないでください」と言い続けるつもりです。それがクライアントのためになると信じているからです。
もし、AIの活用について「どこに使って、どこに使わないか」を一緒に考えたいという方がいれば、お気軽にご連絡ください。まずはお話を聞かせてください。
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