「求人を出しても応募がゼロ」「やっと採れた若手が1年で辞めてしまう」──こうした声は、いまや職員10名以上の会計事務所でも珍しくありません。
税理士業界の有効求人倍率は約2.3倍に達し、慢性的な人手不足が経営を圧迫しています。
しかし、採用だけに頼る人手不足対策には限界があります。
本記事では、「人を増やす」のではなく「少人数で回る仕組みをつくる」という視点から、会計事務所の人手不足を根本解決する7つの対策を解説します。業務の標準化からAI活用まで、明日から着手できる具体策を網羅しました。
本記事で紹介した人手不足対策は、会計事務所のAI活用における一つのテーマです。課題解決からツール選定、導入ステップまで含めた全体像は以下のガイドで解説しています。
会計事務所の人手不足が深刻化している3つの背景

対策を考える前に、なぜここまで人手不足が深刻化しているのかを構造的に把握しておく必要があります。原因を正しく捉えることが、的確な打ち手につながります。
税理士試験の受験者数が減り続けている
税理士試験の受験者数は、ピーク時の約6万人から近年は3万人前後にまで減少しています。「AIに仕事を奪われるのではないか」という漠然とした不安が、若手の業界離れに拍車をかけています。そもそもの母数が減っている以上、採用の工夫だけでは限界があるのが現実です。
業務需要は拡大しているのに供給が追いつかない
一方で、インボイス制度への対応や電子帳簿保存法の改正など、税務業務の範囲は広がり続けています。顧問先1社あたりの業務量が増えているにもかかわらず、対応できる人材の数が追いついていません。この需給ギャップが、有効求人倍率を押し上げ続けています。
採用市場での競争が激化している
大手税理士法人やBig4が待遇面で攻勢をかけており、中小規模の会計事務所は採用戦線で不利な状況にあります。給与・福利厚生・キャリアパスの面で大手と真正面から競っても、なかなか勝ち目がないのが現状です。だからこそ、「採用だけに頼らない経営モデル」への転換が急務となっています。
対策1|業務の棚卸しと標準化で属人化を解消する

人手不足対策の第一歩は、新しいツールの導入ではなく、現在の業務フローを「見える化」することです。多くの事務所では、ベテラン職員の経験と勘に頼った業務運営が定着しており、これが属人化の温床になっています。
全業務を「判断業務」と「作業業務」に分類する
まず、事務所内の全業務を一覧化し、「税務判断や顧問先対応など、人の頭で考える必要がある業務」と「データ入力・転記・書類作成など、手順どおりに進められる作業」に分けます。多くの事務所で洗い出してみると、全体の40〜60%が「作業業務」に分類されます。この作業業務こそ、後述する自動化やAI活用で効率化できる領域です。
マニュアル化で「誰でもできる状態」をつくる
分類ができたら、作業業務から優先的にマニュアルを整備します。ポイントは「完璧なマニュアルを目指さない」ことです。まずはベテラン職員の作業画面を録画し、それに簡単な注釈をつけるだけでも十分に機能します。動画マニュアルであれば作成負荷が低く、新人の教育コストも大幅に下がります。
業務フローを「チェックリスト化」して品質を担保する
マニュアルと合わせて、月次処理・決算・申告といった主要業務をチェックリスト化します。チェックリストがあれば、経験の浅い職員でも抜け漏れなく業務を進められるようになり、所長やベテランの確認工数が減ります。結果として、少ない人数でも品質を落とさず回せる体制が構築できます。
対策2|クラウド会計×自動仕訳で記帳工数を半減させる

記帳代行は多くの会計事務所にとって大きな工数を占める業務です。ここを効率化するだけで、事務所全体の生産性は大きく変わります。
銀行口座・クレジットカードの自動連携を徹底する
freee・マネーフォワード・弥生などのクラウド会計ソフトは、銀行口座やクレジットカードとAPI連携し、取引データを自動取得できます。にもかかわらず、連携設定が不十分なまま手入力を続けている事務所は少なくありません。まずは全顧問先の口座連携を100%にするだけで、仕訳入力の工数は大幅に削減できます。
自動仕訳ルールを「育てる」運用を定着させる
クラウド会計の自動仕訳機能は、使い始めの精度は高くなくても、学習データを蓄積することで精度が向上していきます。「毎月の月次処理後に、誤仕訳のパターンを仕訳ルールに反映する」という運用を定着させることが重要です。半年も続ければ、仕訳の8〜9割が自動化される顧問先も出てきます。
顧問先への証憑アップロード習慣を定着させる
記帳工数が膨らむ最大の原因は、「顧問先から届くレシートや請求書の整理」です。クラウド会計のスマホアプリで顧問先自身にレシートを撮影・アップロードしてもらう運用に切り替えれば、証憑の郵送・受領・仕分けという工程が丸ごとなくなります。導入初期は顧問先への説明が必要ですが、一度定着すれば双方にとって大きなメリットになります。
少人数で回る事務所を作るには、AIツールの具体的な活用法を知ることが最短ルートです。ChatGPTでの報告書作成、freee API連携による自動仕訳など、業務効率化と顧問先への付加価値を両立する10の実践事例をまとめています。
ここまで、会計事務所が人手不足を乗り越えるための仕組みづくりを解説してきました。
「少人数でも回る事務所にしたいが、具体的にどの業務をどうAI化すればいいのか」
——最初の一歩が見えない方もいるかもしれません。
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対策3|RPAで繰り返し作業をロボットに任せる

RPA(Robotic Process Automation)とは、パソコン上の定型作業をソフトウェアロボットに代行させる仕組みです。「デジタルの事務職員」を一人雇うようなイメージで、人を増やさずに処理能力を拡大できます。
会計事務所でRPAが効くのはどんな業務か
RPAが特に効果を発揮するのは、以下のような「手順が決まっていて、繰り返し発生する」業務です。
- eLTAX・e-Taxへのデータ入力・送信作業
- 会計ソフトから試算表・月次レポートを出力して顧問先にメール送信
- 顧問先の登記情報や法人番号の定期確認
- 各種届出書の基本情報の転記
こうした作業は、1件あたりの所要時間は短くても、件数が積み重なると月に数十時間単位の工数になります。
小規模事務所でも導入しやすいRPAツールの選び方
「RPAは大規模事務所向け」と思われがちですが、最近はPower Automate Desktop(Microsoftが無料提供)やUiPath Community Editionなど、無料で始められるツールが充実しています。まずは「月次のレポート出力&メール送信」のような小さな業務から始め、効果を実感してから範囲を広げるのが成功のコツです。
対策4|AI活用で「考える作業」も時間短縮する

RPAが「手を動かす作業」の自動化であるのに対し、AIは「頭を使う作業」の時間短縮を可能にします。ここが、従来の効率化策と決定的に違うポイントです。
ChatGPTなどの生成AIが活躍する場面
ChatGPTをはじめとする生成AIは、会計事務所の以下のような業務で実務的に活用できます。
- 顧問先への説明文・提案書の下書き:税制改正の影響をわかりやすく説明する文書や、経営改善提案書の草案を数分で生成できる
- 税務判例・通達の調査補助:「こういうケースで使える通達は?」といった調べものの初期段階を大幅に短縮できる(ただし最終確認は必ず人が行う)
- 議事録・面談記録の作成:顧問先との打ち合わせ内容を音声から要約し、議事録を自動作成。面談後の記録作業が激減する
- メール対応の効率化:顧問先からの定型的な質問への回答ドラフトを瞬時に作成できる
AI導入で「採用1名分」の工数を生み出す計算
仮に職員1人が1日30分をAIで短縮できるとします。職員10名の事務所であれば、月間で約100時間の工数削減になります。これはフルタイム職員約0.6人分に相当します。AIツールの月額費用は1人あたり数千円程度ですから、年間の採用コスト(求人広告費+教育コスト)数百万円と比較すれば、投資対効果は歴然です。
「AIに任せてはいけない」業務を明確にしておく
一方で、税務判断そのものや顧問先との信頼関係構築といった業務は、AIに委ねるべきではありません。重要なのは、「AIは下書き・調査・整理を担当し、最終判断とコミュニケーションは人が行う」という役割分担を事務所内で明確にすることです。この線引きがあることで、職員もAIを安心して活用できるようになります。
対策5|業務の外注・シェアリングで固定費を変動費化する

「すべてを自前でやる」という前提を見直すことも、人手不足時代の重要な戦略です。固定の人件費を増やさずに処理能力を拡大する方法は、採用以外にもあります。
記帳代行・データ入力のアウトソーシング
記帳代行の一部を、専門の外注業者やクラウドソーシング(クラウドワークス、ランサーズなど)に委託する事務所が増えています。特に繁忙期(1〜3月)に一時的に外注を増やし、閑散期は内製に戻す「変動費型」の運営ができれば、通年で固定人件費を抱えるリスクを抑えられます。
他事務所との業務シェアリングという選択肢
最近注目されているのが、複数の会計事務所間で業務を融通し合う「業務シェアリング」です。たとえば、A事務所は相続税に強く、B事務所は法人税に強いという場合、お互いの得意分野をシェアすることで、採用せずに専門性を補完できます。同規模の事務所同士であれば、比較的導入しやすい仕組みです。
対策6|働き方改革で「辞めない事務所」をつくる

人手不足の解消には「入口(採用)」だけでなく「出口(離職)」を塞ぐことも同様に重要です。職員が辞めなければ、そもそも採用の必要性が下がります。
リモートワーク・フレックスタイムの導入
クラウド会計の普及により、記帳業務や月次チェックはリモートで完結できるようになっています。週2〜3日のリモートワークやフレックスタイム制を導入するだけで、子育て中の職員や通勤が負担の職員の離職を防げます。「柔軟な働き方ができる事務所」という評判は、採用面でもプラスに作用します。
繁忙期の業務平準化に取り組む
会計事務所の離職が集中するのは、繁忙期(1〜3月)の直後です。「今年も死ぬ思いだった」という疲弊感が退職の引き金になります。対策としては、年間を通じた業務の平準化が有効です。たとえば、11月から確定申告の事前準備を前倒しする、顧問先への資料依頼を早期化する、といった取り組みで繁忙期のピークを下げることができます。前述のAIやRPAによる自動化も、繁忙期の負荷軽減に直結します。
キャリアパスと評価制度を整備する
「この事務所にいても成長できない」と感じた瞬間が、若手の離職の最大のトリガーです。AI活用スキルやコンサルティング能力など、新しいスキル軸を評価制度に組み込むことで、「ここにいれば市場価値が上がる」と感じてもらえる環境をつくれます。結果的に、採用時の訴求材料にもなります。
対策7|「付加価値型事務所」への転換で採用力も上げる

ここまでの6つの対策を総合すると、ひとつの方向性が見えてきます。それは、「作業で稼ぐ事務所」から「付加価値で稼ぐ事務所」への転換です。この転換こそが、人手不足問題の根本解決策になります。
記帳代行依存から経営支援型モデルへ
記帳代行は価格競争に巻き込まれやすく、人手に依存する構造から抜け出せません。一方、AIやクラウドツールで記帳業務を効率化し、空いた時間を顧問先への経営アドバイスや税務コンサルティングに充てれば、顧問料の引き上げが可能になります。「作業を売る」から「知恵を売る」へのシフトは、少人数でも高い収益を上げる事務所の共通点です。
AI活用を「採用ブランディング」に活かす
「AIを積極活用している先進的な事務所」というブランディングは、若手人材へのアピールになります。実際に、AI研修制度や最新ツールの導入実績を求人票に記載することで、応募数が増加したという事務所の声もあります。人手不足時代の採用は、「待遇」だけでなく「環境」で選ばれる時代です。
顧問先へのAI活用支援を新たな収益源にする
事務所内でAI活用のノウハウが蓄積されれば、それを顧問先に提供する「二次利用」も可能になります。たとえば、「顧問先の経理業務をAIで効率化するコンサルティング」を月額サービスとして提供すれば、記帳代行とは別の新たな収益源が生まれます。顧問先にとっても、信頼する税理士からAI活用を学べるのは大きな価値です。
まとめ|会計事務所の人手不足は「仕組み」で解決する時代

本記事のポイントを整理します。
- 採用だけに頼る時代は終わった:受験者減少・採用競争激化の中、「少人数で回る仕組み」をつくることが最優先の経営課題
- 業務の棚卸し→標準化→自動化の順序が重要:いきなりツールを導入するのではなく、まず業務を可視化・分類してから、クラウド会計・RPA・AIを段階的に導入する
- 「付加価値型事務所」への転換が根本解決策:作業をテクノロジーに任せ、人は判断・コミュニケーション・コンサルティングに集中する。この構造転換が、人手不足と収益力の課題を同時に解決する
まずは今週中に「業務の棚卸し」から始めてみてください。全業務を一覧化し、「判断業務」と「作業業務」に分けるだけでも、事務所の課題と打ち手が明確になります。

杉田 海地(Kaichi Sugita)
株式会社Saix 代表取締役社長
公認会計士・税理士向けAI活用支援の専門家。THE CXO様をはじめ、延べ130名以上の会計士・税理士にAI研修を実施。受講者の業務時間を平均45%削減し、満足度4.57/5.00を記録。月次報告書作成の75%短縮、記帳代行業務の1/10化など、士業の現場で実証済みの成果を持つ。元リクルート出身。YouTube「かいちのAI大学」登録者4.4万人超。






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