「ChatGPTが話題だが、税理士業務のどこに使えるのか分からない」「試してみたが、的外れな回答ばかりで実務には使えなかった」——こうした声は、会計事務所の所長・幹部から頻繁に聞かれる。
しかし結論から言えば、ChatGPTは使い方次第で税理士業務の生産性を大きく引き上げるだけでなく、顧問先への提案力を高め、新たな収益源を生み出すツールにもなる。
本記事では、記帳代行・月次監査・申告書作成・顧問先対応といった業務フェーズごとに、コピペで使える実践プロンプトを紹介しながら、競合事務所と差をつけるAI活用戦略を解説する。
税理士業務でChatGPTが活きる領域と「使えない」領域の見極め

ChatGPTが得意な3つの業務カテゴリ
ChatGPT(大規模言語モデルを搭載したAIチャットツール)が税理士業務で力を発揮するのは、大きく分けて次の3カテゴリである。
- 文書の下書き・リライト:顧問先への報告書、メール文面、社内マニュアル、提案書など「文章を生成する」作業
- データの整理・要約:試算表の数値を読み取って傾向を要約する、議事録の要点を抽出する、といった「情報を構造化する」作業
- 知識の検索・解説:税制改正のポイント整理、条文の平易な言い換え、業界動向のリサーチなど「知識を引き出す」作業
いずれも「最終判断は人間が行うが、たたき台をAIに作らせる」という使い方がポイントとなる。
ChatGPTに任せてはいけない領域
一方、以下の領域はChatGPT単体での運用に適さない。
- 個別具体的な税務判断:ChatGPTは「一般的な見解」は出せるが、個別事案の税務リスク判断には使えない。ハルシネーション(AIがもっともらしい嘘を生成する現象)のリスクがあるため、条文の引用や税額計算の正確性は必ず人間が検証する必要がある
- 機密情報を含むデータの直接入力:顧問先の決算データや個人情報をそのままChatGPTに入力することは、情報漏洩リスクがある。企業向けプラン(ChatGPT Team / Enterprise)の利用、またはAPI経由でのセキュアな環境構築が前提となる
- 顧問先との信頼関係構築:経営者の悩みに寄り添う対話、感情面のフォローはAIでは代替できない。ここは引き続き税理士の専門性と人間力が問われる領域である
「使えない」の原因はプロンプト設計にある
「ChatGPTを試したが使えなかった」という事務所の多くは、指示の出し方(プロンプト)に原因がある。たとえば「決算について教えて」のような曖昧な指示では、一般論しか返ってこない。役割の指定・前提条件の明示・出力形式の指定という3要素をプロンプトに含めるだけで、回答の精度は劇的に変わる。次章以降で、業務フェーズ別の具体的なプロンプトを紹介する。
【記帳・仕訳】ChatGPTで月次処理のスピードを上げるプロンプト例

勘定科目の判定を効率化するプロンプト
記帳代行において、判断に迷う取引の勘定科目を素早く整理したい場面は日常的に発生する。以下のプロンプトを使えば、判定根拠とともに候補を提示させることができる。
プロンプト例:勘定科目の判定
あなたは日本の税務に詳しい会計専門家です。以下の取引内容について、最も適切な勘定科目を3つまで候補を挙げ、それぞれの判定根拠を簡潔に説明してください。また、税務上の注意点があれば付記してください。
【取引内容】
・取引先:〇〇株式会社
・内容:自社ウェブサイトのリニューアル費用 150万円
・支払日:2026年3月15日【出力形式】
科目候補 | 判定根拠 | 税務上の注意点
の表形式で出力してください。
このように「役割」「取引の具体的情報」「出力形式」を明示することで、実務で使えるレベルの回答が得られる。最終判定はもちろん担当者が行うが、判断の初期検討にかかる時間を大幅に短縮できる。
大量の摘要文から仕訳パターンを整理するプロンプト
新規の顧問先から過去データを引き継いだ際、摘要文がバラバラで仕訳ルールが不明瞭なケースは多い。ChatGPTに摘要文の一覧を渡し、パターン分類させることで整理作業を効率化できる。
プロンプト例:摘要文の分類
以下は顧問先のクラウド会計から出力した摘要文の一覧です。これらを勘定科目ごとにグルーピングし、仕訳ルール表として整理してください。判断が分かれそうなものは「要確認」フラグを付けてください。
【摘要文一覧】
(ここにCSVまたはリスト形式で摘要文を貼り付け)
この手法は、特にM&Aや事業承継で顧問先が変わった際の引継ぎ作業で威力を発揮する。
月次チェックリストの自動生成
業種別の月次チェックリストをChatGPTに生成させ、事務所の標準テンプレートとして活用する方法も効果的である。
プロンプト例:月次チェックリスト
あなたは会計事務所の品質管理担当者です。以下の条件で月次監査チェックリストを作成してください。
【条件】
・業種:飲食業(個人事業主)
・年商規模:3,000万円〜5,000万円
・使用会計ソフト:freee
・特に注意すべき論点:人件費率、原価率、消費税の簡易課税【出力形式】チェック項目 | 確認方法 | よくあるミス の表形式
【申告・税務】税制改正キャッチアップと申告書レビューへの活用

税制改正の要点を顧問先向けに「翻訳」するプロンプト
毎年の税制改正大綱は膨大な量になるが、顧問先が知りたいのは「自社にどう影響するか」の一点である。ChatGPTを使えば、改正内容を顧問先の業種・規模に合わせた「影響サマリー」に変換できる。
プロンプト例:税制改正の顧問先向け要約
以下の税制改正の内容を、中小企業(年商1億〜5億円、製造業)の経営者が読んで「自社にどう関係するか」がすぐ分かるように要約してください。専門用語は最小限にし、影響額の目安も概算で示してください。
【改正内容】
(ここに改正大綱の該当部分を貼り付け)【出力形式】
① 何が変わるか(2〜3行)
② 御社への影響(プラス or マイナス、概算額)
③ 今後のアクション(いつまでに何をすべきか)
このプロンプトで作成した資料を月次面談で配布すれば、「この事務所は情報提供が早い」という顧問先の満足度向上に直結する。
申告書の論点チェックにChatGPTを補助的に使う
申告書の作成そのものはAIに任せるべきではないが、「見落としがちな論点の洗い出し」にはChatGPTが使える。
プロンプト例:申告前の論点チェック
あなたは税務調査を経験豊富に対応してきた税理士です。以下の条件の法人について、法人税申告書作成時に見落としやすい論点を5つ挙げ、それぞれ「なぜ見落としやすいか」「チェック方法」を簡潔に説明してください。
【法人の概要】
・業種:ソフトウェア開発
・設立:5年目
・売上:2億円
・従業員数:20名
・直近の特記事項:研究開発費が増加、海外取引開始
あくまで「チェック漏れ防止の補助ツール」として使う位置づけであり、AIの回答をそのまま最終判断にしない点は徹底すべきである。
【顧問先対応】面談準備・報告書・メール作成の時間を半減させる

月次面談の事前コメントを自動生成するプロンプト
月次面談前の準備で最も時間がかかるのが、試算表の数値を読み解き、経営者に伝えるべきポイントをまとめる作業である。以下のプロンプトで、コメントの下書きを瞬時に作成できる。
プロンプト例:月次報告コメント
以下の試算表データをもとに、顧問先の経営者向けに月次報告コメントを作成してください。良い点・懸念点・来月に向けた提案の3部構成で、それぞれ2〜3行で簡潔にまとめてください。経営者はITに詳しくなく、数字をかみ砕いた説明を好みます。
【試算表サマリー】
・売上高:前月比 +8%、前年同月比 +15%
・売上総利益率:42%(前月45%)
・販管費:前月比 +12%(採用費増加)
・営業利益:前月比 −5%
・現預金残高:3,200万円(前月比 −400万円)
このコメントを担当者が確認・修正したうえで面談資料に反映すれば、準備時間を半分以下に圧縮しながら、報告の質を均一化できる。特に経験の浅いスタッフが担当する顧問先でも、一定水準の報告品質を担保できる点は事務所経営にとって大きい。
顧問先へのメール・案内文を即座に作成する
年末調整の資料依頼、決算報告会の案内、資料の催促メールなど、定型的だが件数が多い連絡業務もChatGPTで効率化できる。
プロンプト例:資料催促メール
以下の条件で、顧問先への資料催促メールを作成してください。丁寧かつ簡潔なビジネス文体で、相手が不快にならないよう配慮しつつ、期限を明確に伝えてください。
【条件】
・催促対象:3月決算に必要な売掛金・買掛金の残高明細
・当初の依頼日:3月1日
・希望提出期限:3月20日
・相手:経理担当の田中様
・トーン:柔らかめだが期限厳守をお願い
テンプレートを毎回ゼロから書くのではなく、ChatGPTに条件を渡して生成→微修正というフローに切り替えるだけで、1通あたり数分の時間削減になる。月間で数十通の連絡を行う事務所であれば、累積効果は無視できない。
面談議事録の整理と次回アクションの抽出
顧問先との面談後、メモをもとに議事録を整理し、次回までのアクションアイテムを明確にする作業にもChatGPTが活用できる。
プロンプト例:面談議事録の整理
以下は顧問先との月次面談中に取ったメモです。これを「決定事項」「検討事項」「次回までのアクション(担当者・期限付き)」の3つに分類し、議事録形式で整理してください。
【面談メモ】
(ここに箇条書きのメモを貼り付け)
「AI活用に興味はあるが、事務所全体でどう導入すればいいか分からない」「業務効率化だけでなく、顧問先への提案力も高めたい」——そうした課題を抱える事務所に向けた実践ガイドを用意した。
ここまで、税理士業務におけるChatGPTの具体的な活用法を紹介してきました。
「ChatGPT以外のツールも気になる」「もっと体系的に事務所全体で活用したい」
——そう感じた方も多いのではないでしょうか。
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ユースケース別 実践ガイド
✓ ChatGPT・Claude・GAS・freee APIの具体的な使い方
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【差別化戦略】顧問先へのAI二次展開で新たな収益源を作る

顧問先の業務効率化をAIで支援し、付加価値顧問を実現する
ChatGPT活用の真のポテンシャルは、事務所内の効率化にとどまらない。顧問先の中小企業に対して「AI活用のアドバイザー」としてサービスを提供することで、従来の記帳・申告に加えた新たな付加価値を生み出せる。
具体的には、以下のような支援が考えられる。
- 経理業務のAI化提案:顧問先の経理担当者がChatGPTで請求書の仕分け作業を効率化する方法を指導する
- 経営分析レポートの自動化:月次の試算表データをChatGPTに読み込ませ、経営者が直感的に理解できるレポートを自動生成する仕組みを構築する
- 社内文書テンプレートの整備:就業規則の改定案、採用募集文、社内通知文などをChatGPTで素早く作成する方法を顧問先に提供する
こうした支援を「AI経営サポートプラン」として月額の顧問料に上乗せすれば、顧問料の単価アップと解約率の低下を同時に実現できる可能性がある。
顧問先向けAI活用提案書をChatGPTで作成するプロンプト
顧問先へのAI活用提案そのものもChatGPTで効率的に作成できる。以下のプロンプトは、顧問先の業種・課題に合わせた提案書のたたき台を生成するものである。
プロンプト例:顧問先向けAI活用提案書
あなたは中小企業のDX支援に詳しいコンサルタントです。以下の顧問先企業に対し、ChatGPTを活用した業務改善提案書のたたき台を作成してください。
【顧問先の概要】
・業種:建設業(年商3億円、従業員25名)
・課題:見積書作成に時間がかかる、現場報告書が属人化している、採用応募が少ない【出力形式】
① 現状の課題整理(3点)
② ChatGPT活用による改善策(各課題に対し具体的な活用法)
③ 期待される効果(時間削減・コスト削減の概算目安)
④ 導入ステップ(3ステップ程度)
この提案書を月次面談の場で提示すれば、「記帳と申告だけの事務所」から「経営のパートナー」へとポジションを変えるきっかけになる。
事務所内での「AI推進担当」の育て方
AI活用を事務所全体に浸透させるには、所長一人が旗を振るだけでは不十分である。以下のステップで「AI推進担当」を育成するとよい。
- 若手スタッフの中からAIに興味のある1〜2名を選抜:デジタルネイティブ世代は抵抗感が少なく、試行錯誤のスピードが速い
- 週1回30分の「AI活用共有会」を設定:その週に試したプロンプトとその効果を全員で共有する場を設ける
- 成功事例を「プロンプト集」として蓄積:事務所独自のプロンプトライブラリを構築し、誰でも同じ品質の成果を出せる仕組みを作る
- 顧問先への提案実績を人事評価に反映:AI活用を「個人の趣味」ではなく「事務所の戦略」として位置づけることで、組織全体の推進力が上がる
AI活用に積極的な事務所は、採用面でも「先進的な職場」というブランディングにつながり、優秀な人材を引きつけやすくなる。
ChatGPT導入時のセキュリティとコンプライアンス上の注意点

顧問先データの取扱いルールを明文化する
税理士業務では、顧問先の財務データ・個人情報を扱うため、ChatGPTの利用にあたってはデータの取扱いルールを事前に定めることが不可欠である。具体的には以下の3点を社内ルールとして整備すべきである。
- 入力してよいデータの範囲:個別の顧問先名や具体的な金額を直接入力しない。数値は概算にする、社名をA社・B社に置き換えるなどの匿名化ルールを設ける
- 利用するプランの選定:無料版ではなく、入力データが学習に使用されないChatGPT Team(1ユーザーあたり月額25ドル〜)やEnterprise版の利用を推奨する。または、Azure OpenAI Service経由でのAPI利用も選択肢となる
- 出力内容の検証プロセス:ChatGPTが生成した文書は必ず担当者がレビューしてから顧問先に提出する。AI生成物の無検証での外部提出を禁止する
税理士法との関係を整理する
税理士法第2条に定める「税務代理」「税務書類の作成」「税務相談」は税理士の独占業務である。ChatGPTはあくまで「税理士が業務を遂行するための補助ツール」であり、AIが独自に税務判断を行うものではないという位置づけを明確にしておくことが重要である。
顧問先に対しても「AIを使って業務を効率化しているが、最終的な税務判断はすべて有資格者が行っている」と説明できる体制を整えることで、信頼を損なわずにAI活用を推進できる。
所内ガイドラインのテンプレート
以下の項目を含む「AI活用ガイドライン」を策定しておくと、スタッフが安心してChatGPTを使える環境が整う。
- 利用目的の範囲(業務効率化・顧問先への提案資料作成 等)
- 入力禁止情報の定義(個人番号、口座情報、具体的な取引先名 等)
- 利用可能なツール・プランの指定
- 出力物のレビュー・承認フロー
- インシデント発生時の報告ルート
まとめ:税理士のChatGPT活用は「効率化」の先に「付加価値」がある

本記事の要点を3つにまとめる。
- ChatGPTは「たたき台を高速で作るツール」として使う:記帳・申告・顧問先対応のあらゆる場面で、文書の下書きやデータ整理に活用できる。ただし最終判断は必ず人間が行う
- プロンプト設計が成果を左右する:「役割の指定」「前提条件の明示」「出力形式の指定」の3要素を含めるだけで、回答の精度は格段に向上する。本記事のプロンプト例をそのまま業務に取り入れてほしい
- 顧問先への二次展開こそが最大の差別化要因:事務所内の効率化にとどまらず、顧問先にAI活用のノウハウを提供することで、顧問料の単価アップと解約率低下を実現できる
まずは本記事で紹介したプロンプトの中から1つを選び、明日の業務で試してみることをおすすめする。小さな成功体験を積み重ねることが、事務所全体のAI活用推進の第一歩となる。
本記事では、税理士がChatGPTを業務に活かすための具体的な活用法を、プロンプト例とともに解説しました。AI活用を始めたい会計事務所・税理士事務所の所長や職員の方に向けた内容です。
ChatGPTだけでなく、Claude・GAS・freee APIまで含めた10のユースケースを体系的に学びたい方には、下記の無料資料がお役に立ちます。業務別に「どのツールを・どう使うか」をプロンプト例と設定手順付きでまとめています。
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